美容室 A


竣工:2021年7月


軒下テラスと外の間のある駅前の小さな美容室



お店のような「家」がたくさん建つ中、家のような「お店」が出来上がりました。

「家」と「お店」の計画では考え方が異なります。

(家と職場に求めるモノで想像してもらうと分かりやすいかもしれません)


「家」は消費の場であり、どちらかというと保守的です。

 [毎日(日常)の反復的な活動に、落ち着きと楽しさを求める場]

家族の愛や温かい家庭という価値観は変わりにくいものなので、普遍性や持続性、のんびり感が重要になります。


「お店」は生産の場であり、進歩的です。

 [日々の喧騒から離れて、束の間の楽しい時間(非日常)を求める場]

社会情勢や売り上げを考えれば、時代の移り変わり(流行り廃り)に敏感であったほうがよく、可変性や更新性、スピード感が重要になります。

考え方の違いというのが、"形"的な違いではなく、"時間"的な違いであるということが分かると思います。

「家」のデザインは、30年、35年、それ以上と長い時間を視野に入れるため、時間の流れを穏やかにする方向に向かいます。大事になるのは"持久力"です。

「お店」のデザインは、1年、5年、10年という時間を視野に入れるため、時間の流れを加速させる方向に向かいます。大事になるのは"瞬発力"です。


美容室Aのオーナーの人柄とやろうとしていること、地域性を考えると、一般的な「お店」のデザインの仕方とは違うアプローチが必要な気がしていました。時間軸を延ばす方向、、、「だんだんと好きになっていく」というようなあり方がこのプロジェクトには向いているのではないか!?

"目新しいモノ"というのはアクセルのようなもので、利用すればスピード感が生まれ"瞬発力"が上がります。もちろんここでも瞬発力は必要なのですが、それよりも"持久力"を手に入れたい、、、。

外部の三角屋根も赤錆び色のトタン(GL鋼鈑)も木の格子も、内部のパーケットフローリングも木箱もパレットもありふれた、もしくはありふれていた"見慣れたモノ"たちです。どれも時間を加速させるモノではありません。

"新しい"に"懐かしい"を加えてみようという試みです。

この“懐かしい”雰囲気とオーナーの“らしさ”によって、お店に訪れた方の第一印象は「なんとなく素敵」くらいがちょうど良くて。身を置くうちに「もうちょっとここに居たい」と感じてもらえたとしたら、目論見は成功でしょうか⁉

一見、街の風景に溶け込むようなちょっと“新しい”モノ。これから、この街とコミュニケーションを築きながら馴染んでいくお店が出来たように思っています。



お店のロゴマークにも使われている外部の木製格子は、スバルノウチオロシをモチーフにしたものです。たまに見かける土蔵を覆っているものだとイメージしやすいでしょうか。ここでは、ポーチの雨除けの役割を果たします。(この格子を“前髪”と呼ぶ人もいます(笑))

「だんだんと好きになっていく」ために考えたことの一つが、7:3分けの様なアシンメトリー。建物に少しだけ違和感をつくることで、パッと見で「しっくりくる」ことを避ける狙いです。 


セット面は3席設けてあります。奥の席は変化を楽しむために建築としての準備は何もしてありません(造り込んではいない)。特等席は道路側の席。窓辺のカウンターには花や緑が飾られ、窓の外には緑の庭が用意されています。

秋になったら植える予定のものは、アオダモ、セイヨウニンジンボク、ニューサイラン、クリスマスホーリーなどと、ハーブ類の下草などです。


北側道路の約50坪の敷地に、必要な台数(4台)の駐車スペースを確保すると、必然的に北側にメインの窓が配置されることになります。北側からの光は、天気に左右されない安定性があるので、日中に一定の変わらない雰囲気をつくるには向いています。なので、お店の計画には「もってこい」だと思いました。

晴れの日でも雨の日でも、気持ちの変化が少ない落ち着いた雰囲気にできたのでは、と思います。


駄菓子屋さん、シャビ―な雑貨屋さん、古い木造の学校、、、、

Aさんから出てきたキーワードは、ある一定の方向性を示していました。

目新しさとかモダンとは全く逆だし、和風とも田舎風とも違います。懐かしさとか湿気みたいなものが必要だと感じました。

壁や天井といった大きな面ではなくて、人に近い部分的なところに「木」を使うと、親しみが感じられて、懐かしいという感覚に近付けるのではないか、と考えました。

カウンターや商品棚、目隠しの仕切り、現しの柱、、、、それらがさりげなく雰囲気をつくってくれています。


今の建物は良く出来ていて、窓を閉めると外との関係を断ち切ることができます。このお店は、緑を植えた庭スペースが重要な位置付けになるので、外とのつながりを大切に扱っています。

いい季節には風が抜けるのも気持ちがいいかもしれない。

そんなわけで、ほとんどの窓が開閉できるものとなっています。



街に開くこと


お店の入口の前になんともバランスの悪い、新築らしからぬ小屋が建っています。その周りには草木を植え、近い将来「緑」がいっぱいになる予定です(秋に施工)。

この小屋は、街に開放し、みんなに使ってもらうためのモノで、「東屋」と呼んでいます。「東屋」と「緑」の使い方は、まだイメージを膨らませたり思案中なのですが、例えば、、、農家さんに野菜を販売してもらったり(プチ市場)、淹れたてのコーヒーを販売してもらったり(屋外カフェ)、町内のお祭りのときにはちょうちんをぶら下げて雰囲気を演出したり、ビニールプールにスイカやジュースを浮かべて提供したり、、、などのちょっとしたイベントに。そして普段は、仲のいいご近所さんなど道行く人の休憩所、子供たちの雨宿り。というようなことをイメージしながら計画をしました。

また、お店の出入口が隠れることで"気になる"気持ちが少し高まったり、アプローチの魅力が上がったり、と建築的作戦も込められています。なによりも"カッコいい建物にしよう"という作為が見えにくくなったことが良かったかなぁ、と!?(笑)

オーナーの優しい人柄と、気取らない三角屋根の小さなお店が多くの人に親しまれ、この街の一員として溶け込むことを。そして、この街が今よりもちょっと楽しく、これまで以上に優しい街になることを願っています。


設計 渡辺 義行



敷地面積:165.42㎡(49.93坪)

延床面積:48.44㎡(14.62坪)

構造規模:木造平屋建

建築地 :新潟県五泉市駅前

用途地域:商業地域

設計期間:2020年8月~2021年4月

工事期間:2021年4月~2021年7月


オープンハウスイベント


『東屋』を活用したイベントの風景

写真は、イベントに遊びに来てくれた『リトルフォレスト』のオウナーさんが撮影してくださったもの。「良かったら何かに使ってください!」というお言葉に甘えて、”軒下カフェ&ショップ”の様子はいただいたお写真から。


photo by Nunokawa


 -軒下カフェ&軒下ショップ- 

2021.7.31~8.2


出店

〇はなんぼ / @hananbo2000

〇コヘル / @2018_kocher 

〇ハレ / @hare_chiffon 

〇イサナ喫茶室 / @isana_coffee

〇イサナ ショップ / @isana_shop_

〇イサナ ファニチャー / @isana_furniture

〇Function Coffee / @function_coffee.jp

〇Finder Coffee / @finder_coffee



jinroku×cobo

新潟県新潟市中央区高美町7-2

TEL:025-385-6177

MAIL:info@cobo.work

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